課題と効果
課題
- 契約書精査が完了しても稟議システムとは連携しておらず、ダウンロード&再アップロードと契約情報の二重入力が発生
- 契約の種類・金額によって承認ルート(代表取締役・部長・課長など)が複雑に分岐し、人による判定ミスが発生
効果
- Power Automateによる自動連携・自動判定により、月間約71.3時間、年換算で約800時間の工数削減
- 承認ルートの判定ミスというヒューマンエラーを防止するとともに、法務部門との信頼関係を構築
導入前
CLM単体では解決しない、業務全体の分断
プロジェクトの発端は、法務部門からの「現状使用しているシステムが容量面で限界を迎えており、AIを搭載した新しいシステムに切り替えたい」という相談だった。当初は「どのベンダーがよいか選定を手伝ってほしい」という依頼にとどまっていたが、現場の業務内容を深掘りしていく中で、CLM(契約ライフサイクル管理システム)を単体で導入するだけでは解決しない、2つの構造的な課題が見えてきた。
1つは、契約書の精査が完了した後の二重入力である。申請部署は精査済みの契約書をもとに社内の「稟議」を別途回す必要があるが、CLMと稟議システムが分断されているため、契約書を一度ダウンロードし、稟議システムへ再度アップロードする手間が発生していた。契約相手や締結内容といった情報も稟議システム側で手入力する必要があり、この二重入力の負担が課題となっていた。
もう1つは、承認ルートの判定ミスである。契約の種類や金額によって最終承認者(代表取締役・部長・課長など)が細かく分岐する承認ルートを、これまで人が都度判断していたため、判定を誤るケースも少なくなかった。CLMの導入だけではこの2つの分断・判定業務は解消されず、業務フロー全体を見直す必要があった。

図:CLM単体では埋まらない業務の分断
再設計
3社比較の末にOLGAを選定、Power Automateで全体を接続
CLM製品の選定にあたっては3社を比較検討した。契約書レビューのAI機能自体には大きな差がなかった一方、決め手となったのは外部システムとの連携性である。契約書の精査が完了した情報を確実に稟議システムへ流すためのデータ連携手段として、Webhookによる外部送信機能を標準で備えていたのは3社の中で1社のみだった。この機能がなければ、CLMを新しくしても結局はダウンロード・再アップロードという従来の手作業が残ってしまうため、外部送信機能の有無が選定の決め手となった。あわせて法務部門ユーザーにとっての使いやすさや費用面でのバランスも評価し、そのCLM製品の採用を決定している。
システム構築にあたっては、法務部門・情報システム部門がすでにMicrosoft 365環境を全社的に利用しており、追加ライセンスや新規ツールの習得コストを抑えられることから、Power Automateを中心に据えた。契約金額や契約種類といったCLM上の入力情報をもとに承認ルートを自動判定し、その結果を稟議システムの決裁書フォーマットへ自動で流し込む仕組みを構築した。これにより、これまで人が都度判断していた承認ルートの決定が自動化され、判定ミスの防止につながっている。あわせて、紙の契約書に必要となる収入印紙の要否判定についても、従来は経理部への都度の手動依頼が必要だったところを、CLMからのデータ連携によって自動的に依頼が飛ぶ仕組みへと切り替えている。

図:Power Automateによる全体連携の仕組み
他部署の割り込みと、予算判断に翻弄された調整
プロジェクト中盤、法務との間で決裁書のフォーマットや承認ルートがほぼ固まりつつあったタイミングで、新設された調達部門からも同じCLM基盤を使いたいという要望が新たに加わった。すでに固まりかけていた仕様に、調達部門向けの要件を織り込む形で設計を見直すことになり、部署ごとに異なる要望をひとつのシステムに落とし込む調整には相応の時間を要した。
AIに期待された「前さばき」と、現実とのギャップ
プロジェクト当初、法務部門がAIに最も期待していたのは、寄せられた契約書の法的リスク(責任範囲や違約条項など、自社に不利な条件が含まれていないか)の大小をAIが自動判定し、軽微なものは法務の精査を通さずそのまま稟議に進められるようにする「前さばき」機能だった。しかし要件定義を進める中で、市場に出回っているCLM製品のAI機能は、契約書の文言修正を提案するレビュー支援にとどまり、法務が求めていた前さばきの判定機能を持つ製品は存在しないことが、複数ベンダーへのヒアリングを通じて明らかになった。
そのため今回のプロジェクトでは、AIはあくまで契約書レビューの支援という位置づけにとどめ、業務フロー全体の効率化を主眼としてプロジェクトを推進した。当初期待されていた前さばき機能については、「まずはCLMを導入し、その先の開発は次のフェーズで取り組む」という整理のもとで導入に踏み切っている。
導入後
月71.3時間、年換算で約800時間の削減を見込む
法務部門でのテスト運用をもとに試算したところ、月間約71.3時間の工数削減効果が見込まれている。年間に換算するとおよそ800時間規模となり、承認ルート判定の自動化によるヒューマンエラー防止という定性的な効果とあわせて、大きな成果が見込まれる結果となった。

図:削減効果見込み
プロジェクトは1年間を通じて法務部門と密に連携しながら進められ、その過程で強い信頼関係が築かれている。システムのリリースをもって本プロジェクトは一区切りとなるが、当初実現できなかった「前さばきAI」については、法務部門と協業しながら開発を進める新たなプロジェクトとして、すでに始動している。外部のベンダーではなく、伴走してきたチームだからこそ得られた信頼が、次の取り組みにつながった形だ。