課題と効果

課題

  1. 案件ごとに外部ベンダーの体制を組み直す契約形態のため、都度ゼロから要件定義・引き継ぎが発生しコストがかさんでいた
  2. 度重なるカードブランド統合(M&A)でデータ構造が複雑化し、統合作業の安全確保のため基幹システムの新規開発も凍結中だった
  3. 現場では、Excelマクロ作成やRPA改修など細かな業務改善だけは止めたくないという強いニーズがあった

効果

  1. 案件都度契約から「定常組織」契約へ切替え、常時4名体制で5テーマを並行推進
  2. 27テーマ中17テーマを納品(残り10テーマは要件定義完了後の内製対応、または次年度への持ち越し)
  3. 年間約47.6人月(▲約2億円/年)を効率化。最大の効果はカードブランド統合に伴うデータ移行の自動化
  4. 他社事例の壁打ちを通じ、意思決定迅速化を目的とした58名体制のDX推進部門新設に貢献

導入前

3つの制約下で、止められない現場改善という矛盾

金融業界特有の厳格なセキュリティルールにより、現場が自由に業務改善を進めにくい環境が続いていた。加えて、度重なるカードブランドの統合(M&A)によって既存システムを1つに統合する移行作業が進んでおり、移行期間中に他のシステム変更が加わると不整合やトラブルが生じるリスクが高まるため、安全に移行を完了させることを優先し、基幹システムの新規開発は長期間凍結されていた。あわせてデータベース構造自体も統合の影響で複雑化しており、外部ベンダーが自由に手を入れにくい状況が重なっていた。

一方で、現場からは、Excelマクロの作成やRPAの改修といった細かな業務改善だけは止めずに続けたいという強いニーズが継続的に存在していた。従来のようにPJ単位で外部支援を受けるやり方では、案件が発生するたびに体制を組み直し、要件定義から引き継ぎまでをゼロから行う必要があり、コストと時間がかさむという構造的な課題も抱えていた。

図:3つの制約と現場ニーズのジレンマ

再設計

PJ単位の支援から「定常組織」という契約形態へ

こうした状況に対応するため、個別のプロジェクト単位ではなく、年間を通じた「定常組織」としての包括支援体制を構築する契約へと切り替えた。常時4名体制のエンジニアリソースを確保し、優先順位は基本的に費用対効果で判断しながら、5つのテーマを並行して推進する座組みとした。

全体の統括・バックアップを担いつつ、開発メンバーのアサインや進捗管理は専任者が主導する体制を敷き、定常的にリソースを張り付けることで、案件ごとの体制構築コストや引き継ぎロスを解消した。

図:PJ単位から定常組織へ

この「定常組織」という枠組みのもと、以下の5つのテーマを並行して推進した。単発の開発案件ではなく、複数テーマを横断してリソース配分・優先順位付けができる点が、この支援形態ならではの強みとなっている。

① 業務改善/保守
各部門から寄せられた個別の課題を27テーマとして具体化し、17テーマを納品
② RPA環境最適化/ホストDB参照方針検討
非稼働RPAの整理や、ホストDB参照方式の見直しを検討
③ 新技術導入検討
生成AIの全社活用に向けたハンズオン研修・浸透支援を実施
④ 新規部署設立に向けた検討
他社の組織改編事例を踏まえた壁打ち支援を継続
⑤ 業務プロセスの提案前検討
特定業務における手作業の二重入力・中継コストを見直し、ツール改修を提案

業務改善/保守で見えた、最大の効率化案件

5つのテーマのうち、最も大きな比重を占めたのが「業務改善/保守」だった。各部門から寄せられた個別の課題を27テーマとして具体化し、うち17テーマを実際に納品した。残りの10テーマは、要件定義完了後にクライアント内製で対応いただいた案件や、次年度以降の対応に持ち越した案件だった。

中でも最大の効率化効果を生んだのが、カードブランド統合に伴うデータ移行案件だった。従来すべて手作業に依存していたデータの突合・移行作業を自動化ツールに置き換えたことで、単体の施策として最も大きな削減効果を実現している。

RPA環境の壁、AI活用の壁――制約の中で見えた次の一手

「RPA環境最適化/ホストDB参照方針検討」では、非稼働RPAの整理やホストDB参照の安定化に向け、SQL直接取得・API経由取得・共通RPA活用の3パターンを提示。ライセンスコストの観点から、有償のWinActorに代えて無償範囲のあるPower Automate Desktop(PAD)へのシナリオ移行検証も実施した。しかし、金融特有の強固なセキュリティ制約により全社導入は難しいという結論に至り、基幹システムの開発凍結の影響もあって、具体的な改善方針の協議は次年度以降の持ち越しとなっている。

「新技術導入検討」では、MS Copilotの全社活用に向けたハンズオン研修を実施。業務削減時間は目標を上回る一方、月間アクティブユーザー率・満足度は目標未達となった。この結果を踏まえ、各部署からCopilot活用の推進役となる社員(アンバサダー)を選出し、月次の相談会・勉強会を通じて具体的な業務活用事例を共有・浸透させる「アンバサダー制度」を企画し、一部部門でトライアルを開始している。

導入後

積み上げた47.6人月、そしてその先へ

「新規部署設立に向けた検討」では、部門間で権限が分散し意思決定から施策実行までに時間を要するという構造的な課題に対し、他社の組織改編事例(AI活用を統括する専門部署の設置、全社的なコラボレーションツールの活用など)を提示しながら継続的な壁打ち支援を行った。最終的な体制設計はクライアントの内製で進められ、意思決定の迅速化を目的としたDX推進を一本化する専任部署(58名体制)の新設につながっている。

また、「業務プロセスの提案前検討」では、加盟店業務センターと福岡事務センター間で発生していた手作業の二重入力・中継コストを見直し。ツールへの入力補助機能の追加や、業務フローそのものの簡素化を提案し、月次の手作業工数の削減を実現した。

基幹システムの大規模開発が凍結されるという厳しい制約下にありながら、「業務改善/保守」だけで年間約47.6人月(約2億円/年)相当の効率化効果を積み上げることに成功した。単発のプロジェクトでは実現しづらい、継続的な業務理解の蓄積と、複数テーマを横断した優先順位付けが可能な「定常組織」という支援形態そのものが、成果を生み出す土台となっている。

2026年度は、支援要望が特に多かった営業第2本部の業務可視化(BPR)を新たなテーマとして追加。定常組織として培ってきた業務理解を土台に、AI活用のアンバサダー制度の全社展開や、新設されたDX推進部門との継続的な伴走支援も見据えている