課題と効果

課題

  1. 契約室のチェック業務では、法令・規程との整合性など判断に必要な観点が100〜200項目にのぼるとされるが、明文化された基準は存在せず、判断が属人的になっていた
  2. ベテラン2名・中堅2名・新人2名の計6名体制で、チェックの精度・粒度にばらつきが発生していた
  3. 年間1,000〜1,200件の申請のうち、同一内容でも年度によって指摘の有無が分かれ、無駄な手戻りが発生していた

効果

  1. 過去2,000〜4,000件のコメント付き書類データをもとに、AIにチェックパターンを学習させる活用方針を整理
  2. Copilot Studio×ClaudeによるAI一次チェックの活用方針を整理・提案

導入前

チェック精度が「その人次第」になっていた

契約室では、申請された仕様書・稟議書に不備がないかをチェックする業務を担っている。チェックすべき観点には、法令・規程との整合性なども含まれるとされるが、完全には言語化されておらず、大まかな概念的なルールしか存在しなかった。そのため、チェックの精度は担当者によってばらつきが生じていた。ベテランは法律やルールに則って詳細に確認できる一方、新人は明文化されていない基準を感覚的に読み取るしかなく、見落としやチェックの粒度の粗さにつながっていた。

もう一つの課題が、チェックのブレによる無駄な手戻りである。年度が変わるだけで内容がほぼ同じ申請であっても、「昨年はすんなり通った申請が、今年は不備を指摘された」というケースが年間で複数件発生していた。チェックを担当しているのは、ベテラン2名・中堅2名・新人2名の合計6名。年間約1,000〜1,200件(月間約100件)の申請書類を、この6名で分担して処理している。

図:チェック業務の体制と処理規模

再設計

目的は「AI導入」ではなく「チェック観点の標準化」

既存の稟議アプリの運用が安定し、保守にかかる工数に余裕が生まれたことをきっかけに、現場へのヒアリングを通じて課題認識をすり合わせ、AI活用の検討に着手した。

検討にあたって強調したのは、AIの導入自体を目的にしないという方針である。一番の目的は「チェック観点を標準化(言語化)すること」にある。チェック観点は100〜200項目にのぼり、すべてを紙のチェックリストに落とし込むと、確認するだけで大きな負担になってしまう。そこで、こうした膨大なデータの取り扱いを得意とするAIの活用を軸とした方針を整理した。

具体的には、契約室の担当者がこれまでWordのコメント機能を使って手動で書き込んできた修正指示(1書類あたり10〜20個)が、過去分として2,000〜4,000件蓄積されている。このデータをLLMに読み込ませ、「こういう記述パターンには、こういうコメントをつける」というチェックのパターンを自動で判定・学習させる構想を整理し、フロントエンドにはCopilot Studio、バックエンドにはClaudeの活用を想定した活用方針としてまとめた。

最終的に目指す運用イメージは、契約室の担当者がこれまでWordのコメント機能を使って行ってきた修正指示を、AIが代替する形である。申請書類を読み込んだAIが不備の可能性が高い箇所を自動的に検出し、修正コメントの下書きを直接書き込む。最終的な確認・判断は引き続き契約室の担当者が担うが、AIによる一次チェックを網羅的に行うことで、チェック漏れの解消と、ベテラン・新人間のチェック品質差の解消を両立させる狙いである。

図:チェックパターン学習の全体像

AIありきではなく、要件整理からのスタート

方針整理にあたっては、環境調査とデータ整理を先行させ、AIによる自動チェックが本当に必要な打ち手なのか、あるいはチェック手順の明確化・標準化だけで十分な効果が得られるのかという観点から要件を整理した。開発に先立ってこうした精査を行うことで、AI導入そのものが目的化することを避け、実際の課題解決に直結する打ち手を見極める方針を取っている。

導入後

標準化とAI活用、両輪での改善に向けて

クライアント側には、社内にAI活用のノウハウを蓄積し、今後は他の業務へも水平展開したいという強い意向がある。単にシステムを構築するだけでなく、AI活用の進め方やスケジュール感を体系化しながら伴走する支援の形を志向しており、チェック観点の標準化とAI活用の両輪で、属人化の解消に向けた取り組みを進めている。

チェック業務が属人化し、年度や担当者によって判断にブレが生じている――同様の課題を抱えている企業にとって、参考になる事例ではないでしょうか。