課題と効果

課題

  1. UiPath Studioを2020年から2025年へ、異例の5年分一気にバージョンアップする必要があった
  2. 5年分の仕様変更差分により、大量のエラー・不具合(改修箇所)が発生することが判明
  3. 既存の保守チームだけでは膨大な修正量を吸収しきれず、短期集中の開発体制が必要だった

効果

  1. 28業務・158プロジェクトのロボットを対象に、業務単位で計画的に改修を推進し、着実に対応
  2. バージョンアップを行わなければ経理業務基盤が停止しかねないリスクを未然に防ぎ、事業継続性を確保

導入前

サポート切れ目前、5年分を一気に飛び越える異例のバージョンアップ

経理部門では、UiPath Studioのバージョンを2020から2025へと一度に引き上げるという、極めて異例の対応が必要になっていた。一般的にRPA開発ツールのバージョンアップは1〜2年ごとに行うのが目安とされる。これは主要な開発ツールのサポート期間が概ね3年であるためで、サポートが切れる前に更新するのが通常の運用である。具体的な経緯は明らかになっていないが、今回は5年間バージョンアップが行われないまま運用が続けられており、一度に5年分の仕様変更を反映する必要に迫られていた。

バージョンアップを行うと、5年分の仕様変更の差分がそのままエラーや不具合として一気に顕在化する。既存の保守チームだけではこの膨大な改修作業を吸収しきれないという判断から、短期集中の開発プロジェクトとして体制が新たに立ち上げられることになった。体制は管理者1名・エンジニア4名の計5名で構成されている。

図:通常の3~4倍を一気に飛び越えるバージョンアップ

再設計

あえて冗長に作られた28業務・158プロジェクトの構造

対象となるロボットは28業務・158プロジェクトにのぼる。経理部門が利用する「申請を受け付ける依頼システム」と、各種データを集約する「データベースシステム」の間を橋渡しするのが、これらロボットの役割である。申請内容をロボットが読み取ってデータベースへ登録し、登録が完了すると元の依頼システムへステータスを更新しに戻るという一連の流れを自動化している。

28業務のうち、核となる基本ロボットが存在するのは6業務のみ。この6業務分の基本ロボットを、業務ごとにパラメータを変更するだけで横展開することで、28業務すべてに対応できる設計としている点が大きな特徴だ。加えて、1業務あたり平均6〜8個のロボットで構成されており、1つのロボットが担う処理は「システムを参照するだけ」「Excelを更新するだけ」といった具合に、工程単位で細かく分業されている。1プロジェクトあたり平均1000ステップという規模になるのも、こうした汎用性と、エラー発生時に途中の区切りから手動で復旧できるようにするための頑健性を両立させた設計思想によるものである。

図:28業務・158プロジェクトの構造

業務単位で進める改修と、遅延から立て直したペース

プロジェクトは4ヶ月間の短期プロジェクトとして進行しており、全体を一括してテストするのではなく、「今週は業務1、来週は業務2」というように業務単位で改修とテストを区切りながら計画的に進めている。

一時期、一部業務で計画に対する遅延が発生していた。原因は、事前に見積もっていたよりも実際の改修箇所がはるかに多かったことに加え、バージョンアップ自体には起因しない、以前から見過ごされてきた潜在的な不具合が想定以上に見つかったことによるものだった。直近の集中対応により、計画通りの進捗まで回復し、着実に対応を進めている。

図:4ヶ月間の進捗状況

導入後

定量効果より重い、「止めない」という価値

この種のバージョンアップ・改修プロジェクトは、新たに何かを削減して効率化するような「攻め」の取り組みとは性質が異なる。バージョンを上げなければシステムが将来的に動かなくなってしまうため、対応せざるを得ない「守り」の性格を持つプロジェクトであり、分かりやすい定量的効果を打ち出しにくい類のものである。

しかし、その裏返しとして、対応を怠れば経理業務を支える基盤そのものが停止しかねなかったという意味で、事業継続の観点からは極めて重要な意義を持つ。28業務・158プロジェクトという広範なロボット群を計画的に改修し、業務基盤の継続性を守り抜くことこそが、本プロジェクトの本質的な価値と言える。

長期間バージョンアップが先送りされている、あるいは大量のRPAロボットの保守・継続運用に不安を抱えている――同様の課題を抱えている企業にとって、参考になる事例ではないでしょうか。