
本記事では、生成AI(LLM)を活用したOCR(光学文字認識)の最新動向と、その利点・課題・今後の展望について解説します。従来のOCR技術と比較し、LLM OCRがどのように業務効率化やデータ抽出の精度向上に寄与するかを具体的な事例を交えて紹介します。
目次
LLM OCRとは?
そもそもLLMとは?
LLM(Large Language Model、大規模言語モデル)とは、大量のテキストデータを学習し、言語の構造や意味を理解する能力を持つAIモデルのことです。これにより、文章の生成や要約、翻訳、質問応答など、さまざまな自然言語処理タスクを高精度で実行できます。
そもそもOCRとは?
OCR(光学文字認識)は、画像やスキャンした文書に含まれる文字を認識し、機械可読なデジタルデータに変換する技術です。OCR技術により、従来の紙の書類や手書きの文字をコンピュータ上で利用できるデータに変換することができます。
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LLM OCRについての解説
LLM OCRは、従来のOCR技術に大規模言語モデル(LLM)を組み合わせた新しいアプローチです。従来のOCRは、画像内の文字を認識することに特化していましたが、LLM OCRは、認識した文字の文脈や意味を理解し、非定型の書類からも必要な情報を抽出することが可能です。例えば、請求書や契約書など、レイアウトが異なる書類でも、LLMが文脈を理解して必要な情報を抽出します。
AI OCRとLLMOCRの違いは?
AI OCRとは
AI-OCRとは、人工知能(AI)技術を活用した光学文字認識(OCR)技術のことを指します。従来のOCR技術は、印刷された文字をスキャンしてテキストデータに変換する技術ですが、AI OCRは機械学習やディープラーニングを用いて、手書き文字や非定型フォーマットの文書の認識精度を向上させた進化版の技術です。
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AIOCRとLLMOCRの特徴
AI OCRは、機械学習やディープラーニングを活用して文字認識の精度を向上させています。これにより、手書き文字や複雑なレイアウトの文書でも高精度な認識が可能となり、定型・非定型の帳票データを効率的にデジタル化できます。
LLM OCRでは、大規模言語モデル(LLM)を活用して、画像内の文字だけでなく、文書全体の構造や意味を理解します。これにより、非定型の書類からも必要な情報を高精度で抽出することが可能です 。
また、LLM OCRでは、OCRで認識したテキストに加え、文書全体の構造や意味を解析します。これにより、例えば請求書や契約書など、レイアウトが異なる非定型の書類でも、必要な情報を高精度で抽出することが可能です 。
さらには、LLM OCRでは、ユーザーが自然言語で指示を出すことで、特定の情報を抽出することができます。これにより、従来のOCRでは対応が難しかった複雑な書類や多様なフォーマットにも柔軟に対応できます 。
LLM OCRのメリット
文脈理解による高精度な情報抽出
従来のOCRでは、帳票ごとに読み取り箇所を指定する必要がありましたが、LLM OCRでは、抽出したい項目名(例:「合計金額」)を入力するだけで、その情報が帳票上のどこにあるかを自動で判断します。これにより、数百種類の帳票を一括で取り込むことが可能となり、複雑な設定が不要になります。
また、LLM OCRは、テキストの意味を理解する能力を持っています。例えば、請求書の中から「合計金額」という項目を抽出する際、その文言だけでなく、記載されている位置や周囲の文脈から意味を理解し、抽出することができます。これにより、「総額」や「請求額」のように少し違う表現でも正確に認識できます。 LLM OCRは、表の罫線を認識し、セルの位置を特定することができます。さらに、LLMを用いて、表の見出しと内容の関係を解釈し、必要な情報を抽出することが可能です。これにより、複雑な表形式のデータも正確に処理できます。
文書全体の文脈理解
レイアウトと意味の同時解析をすることができます。従来のOCR技術は、画像内の文字を認識することに特化していましたが、LLM OCRは、文書のレイアウト情報とテキスト情報を統合的に解析します。これにより、表や図、見出し、段落などの構造を理解し、文書全体の意味を把握することが可能となります。
また、LLM OCRは、多言語や多形式の文書に対応しています。これにより、異なる言語やフォーマットの文書からも情報を抽出することが可能となり、グローバルな業務にも対応できます。
生成AIとの組み合わせによる高度な処理
LLM OCRは、抽出した情報を要約する能力を持っています。例えば、長文の契約書や報告書から重要なポイントを抽出し、簡潔な要約を生成することができます。これにより、膨大な文書を迅速に把握し、意思決定のスピードを向上させることが可能となります。
LLM OCRは、多言語に対応しており、異なる言語で記載された文書も処理することができます。これにより、外国語の契約書や請求書なども正確に読み取り、必要な情報を抽出することが可能となります。また、翻訳機能を組み合わせることで、異なる言語間での情報共有がスムーズに行えるようになります。
LLM OCRは、抽出した情報を構造化し、データベースやスプレッドシートなどの形式に整形することができます。これにより、手作業でのデータ入力や整理の手間を削減し、業務の効率化を図ることが可能となります。
LLM OCRは、生成AIと組み合わせることで、情報の要約や多言語対応、データの構造化など、付加価値の高い処理が可能となります。これにより、業務の効率化や国際化対応が進みます。導入を検討する際は、上記の注意点を考慮し、最適なソリューションを選択することが重要です。
LLM OCRを活用する課題
日本語対応の精度
LLM OCRは、日本語の認識において特有の課題を抱えています。特に、手書き文字や複雑なレイアウトの文書では、従来のOCR技術の方が優れている場合があります。例えば、マルチモーダルLLMを使用した日本語OCRの検証では、プロンプトに対する応答が不正確であったり、文字認識が困難であったりするケースが報告されています。
リアルタイム処理の難しさ
LLMは大量のデータを処理するため、リアルタイムでの応答が難しい場合があります。例えば、Azure Document IntelligenceとAzure OpenAI Serviceを組み合わせてプロンプトを記載し、抽出を行う場合、OCRの精度に依存するため、特に日本語が苦手なケースではリアルタイムでの処理が難しいことがあります。
また、高度な解析を行うため、処理速度には一定の制限があります。特にリアルタイム性が求められる業務では注意が必要ですが、バッチ処理によって多数の文書を一括処理する用途には適しています。
さらに、OCRによる誤認識が発生した場合でも、LLMが文脈を補完して正しい情報を推定・抽出することで、エラーの影響を最小限に抑える設計が可能です。
LLM OCRは、文書の構造や意味を理解し、高精度な情報抽出を可能にする革新的な技術です。しかし、特定の条件下では日本語対応の精度や個人情報の取り扱い、リアルタイム処理の難しさなどの課題が存在します。これらのデメリットを考慮し、業務の要件や文書の種類に応じて、最適なOCRソリューションを選択することが重要です。
PDF文書におけるLLM OCRの特徴
高精度な文字認識
LLM OCR(大規模言語モデルを活用した光学文字認識)は、従来のOCR技術に比べて、PDF文書内の手書き文字や訂正箇所を高精度で認識する能力を持っています。これにより、PDFやFAXの手書きメモも正確にデジタル化することが可能となります。
従来のOCR技術は、主に印刷された文字の認識に特化しており、手書き文字の認識には限界がありました。しかし、AI技術の進歩により、手書き文字の認識精度が大幅に向上しています。
手書き文字は、筆跡や書き手によって大きく異なります。LLM OCRは、大量の手書きデータを学習することで、さまざまな筆跡に対応し、高精度な認識を実現しています。
手書き文書には、訂正箇所が含まれることがありますが、LLM OCRでは、訂正された文字や訂正線を適切に認識し、元の意図を正確に再現することができます。
LLM OCRは、手書き文字や訂正箇所を高精度で認識する能力を持ち、従来のOCR技術を超える性能を発揮します。特に、手書きメモや訂正が多い文書のデジタル化において、その真価を発揮します。
文書全体の文脈理解
LLM OCRは、PDF文書全体の構造や意味を理解し、必要な情報を抽出する能力を持っています。これにより、非定型のPDF文書からも高精度で情報を抽出することが可能となります。
LLM OCRは、文書のレイアウト情報とテキスト情報を統合的に解析します。これにより、表や図、見出し、段落などの構造を理解し、文書全体の意味を把握することが可能となります。
視覚的な構造情報を保持しながら情報を抽出します。例えば、表の罫線や画像の位置関係を理解し、文書内の情報を正確に抽出することができます。
マルチモーダル対応
PDF文書内の画像や表などの視覚的要素を理解し、テキスト情報と組み合わせて処理する能力を持っています。これにより、PDF文書の多様な情報を包括的に処理することが可能となります。以下に、LLM OCRのマルチモーダル対応に関する特徴を詳しく解説します。
1. 画像とテキストの統合的解析
LLM OCRは、PDF内の画像や図表を解析し、それらとテキスト情報を統合的に処理します。これにより、画像内の文字や図表の内容を正確に認識し、文書全体の意味を把握することが可能となります。
2. 表の構造理解と情報抽出
PDF文書内の表は、データを整理して提示するための重要な要素です。LLM OCRは、表の構造を理解し、セルの内容を正確に抽出することができます。これにより、手動でのデータ入力や整理の手間を削減し、業務の効率化を図ることが可能となります。
3. 視覚的要素の意味理解
LLM OCRは、PDF内の画像や図表だけでなく、視覚的なレイアウトやデザイン要素も理解します。これにより、文書の構造や意図を正確に把握し、適切な情報抽出や処理を行うことができます。
LLM OCRの活用方法
請求書/領収書の処理とデータ抽出
LLM OCRを活用することで、請求書や領収書から日付、宛名、金額、内訳などの情報を自動で抽出し、会計システムへのデータ入力を自動化できます。これにより、入力ミスや計算ミスが減少し、データの正確性が向上します。
また、繁忙期などのピーク時でも、AIによる自動処理により、人的負荷を軽減できます。これにより、従業員の労働時間の削減や業務の平準化が可能となります。
請求書/領収書の処理とデータ抽出
契約書や証明書などの法的文書から、顧客情報や契約条件、期間などの重要な要素を迅速かつ正確に抽出し、データベースに集約することが可能です。これにより、契約の進行や遵守の管理が容易になり、業務のスピードと正確性が向上します。
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専門的な文書の情報抽出
専門的な文書(論文、特許、契約書など)から必要な情報を抽出する際、従来のOCR技術では限界がありました。LLM(大規模言語モデル)を活用することで、これらの課題を克服し、効率的かつ高精度な情報抽出が可能となります。
LLMは、大量の専門的なテキストデータで学習されており、専門用語や業界特有の表現を理解する能力があります。これにより、特許文書や学術論文など、専門的な内容を含む文書からも正確に情報を抽出できます。
LLMは、文書全体の文脈を理解する能力を持っています。これにより、同義語や異なる表現で記載された情報を適切に関連付け、必要なデータを抽出することが可能です。
また、テキストだけでなく、画像や表などの視覚的要素も理解する能力を持っています。これにより、図表や画像を含む文書からも、視覚的な情報とテキスト情報を統合して処理することが可能です。
ローカルLLMを活用したOCRシステム構築
ローカルLLMを活用したOCRシステムの構築は、セキュリティやプライバシーの観点から特に重要です。これにより、機密情報を外部に送信せずに処理でき、データの安全性が確保されます。
ローカル環境でOCR処理を行うことで、機密情報が外部に送信されることなく、内部で完結します。これにより、情報漏洩や不正アクセスのリスクを低減できます。
また、特定の業務やニーズに合わせたカスタマイズが可能です。独自のデータセットを用いてファインチューニングを行うことで、精度や応答の質を向上させることができます。
ローカルLLMを活用したOCRシステムは、セキュリティやプライバシーを重視する企業や組織にとって、非常に有効な選択肢です。適切なハードウェアとソフトウェアの選定、そして専門的な知識を活かして、最適なシステムを構築することが求められます。
チラシや広告の自動情報抽出
スーパーのチラシや広告など、非定型で視覚的な要素が多い文書から商品名や価格などの情報を自動で抽出する技術は、マーケティング分析や在庫管理において非常に有用です。これにより、手作業でのデータ入力や情報整理の手間を大幅に削減できます。
スーパーのチラシや広告は、商品名、価格、割引情報、販売期間など、購買意欲を刺激する情報が豊富に含まれています。これらの情報を手作業で抽出・整理するのは膨大な時間と労力を要します。そこで、LLM(大規模言語モデル)を活用したOCR(光学文字認識)技術を用いることで、これらの情報を自動で抽出・構造化することが可能となります。
LLM OCRの今後の展望
LLM OCRは、従来のOCR技術を超えて、文書の文脈理解と情報抽出を可能にする革新的な技術です。今後は、さらに多くの業務プロセスにおいてLLM OCRが導入され、業務の効率化やデータ活用の促進が期待されます。特に、非定型帳票や多様なフォーマットの書類において、その真価を発揮するでしょう。
LLM OCRは、従来のOCR技術を超えて、文書の文脈理解と情報抽出を可能にする革新的な技術です。特に、非定型帳票や多様なフォーマットの書類において、その真価を発揮します。ただし、日本語対応の精度や個人情報の取り扱い、リアルタイム処理の難しさなど、いくつかの課題も存在します。業務での導入を検討する際は、これらの点を考慮し、最適なソリューションを選択することが重要です。
なお、LLM OCRの導入にあたっては、無料トライアルを提供するベンダーもあります。実運用前に自社帳票での精度検証(PoC)を行うことで、導入リスクを低減することが可能です。ITSOのLLM OCR製品は、識字率の高さ、複雑な多種多様な書類でもマッピングが不要で簡単に利用ができます。また、ITSOのLLM OCRは、APIを通じて既存の基幹システムやSaaSと連携できるため、請求書管理やCRMへの自動連携といった拡張的な利用も可能です。
OCR製品で迷っている方はお気軽にご相談ください。